(東京五輪あのとき何が、マラソン札幌移転、背景に透けるバッハ
の保身)
「合意なき決定」。2019年11月1日、東京都の小池百合子知
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事はこう胸の内を吐き出した。五輪の華、男女のマラソンと競歩が、
東京の暑熱を懸念して札幌へ移された。国際オリンピック委員会
東京都の小池百合子
外部リンク
(IOC)による強制的な開催地変更の舞台裏を東京五輪・パラリンピ
ック組織委員会の実務責任者が語った。
「青天のへきれき」。東京五輪・パラリンピック組織委員会事務
総長の武藤敏郎(78)=元石川県総務部長=は、電話の内容を耳
にした際の驚きを短い言葉に込めた。
2019年10月11日、金曜日だった。相手は国際オリンピック
委員会(IOC)で東京大会の調整委員会を率いるジョン・コーツ(7
2)。IOC会長のトーマス・バッハ(68)の腹心である。組織委
は会長の森喜朗(84)と武藤が対応した。話はマラソンと競歩の
札幌移転提案だった。
(暑さのリスク)
「バッハが、ドーハ(カタール)の世界陸上の女子マラソンで棄権
者が続出し、選手が緊急搬送される映像を見てショックを受けてい
る。東京で万一同じことが起こると、東京は暑さで選手の健康がリ
スクにさらされた大会になる。それは望ましくない。札幌に移した
らどうか」。提案はこんなふうだったという。
ドーハでは9月から陸上の世界選手権が開かれた。中東の高温多湿
の環境下、女子のマラソンは深夜スタートにもかかわらず、出場選
手の4割を超す28人も棄権した。
「しかし東京も暑熱対策」
しかし東京も暑熱対策に手をこまねいていたわけではない。スター
手をこまねいて、戻る1
ト時間を当初の午前7時半から6時に繰り上げた。東京都は路面温
度の上昇を抑える舗装や、街路樹の剪定で道路が日陰になるなどの
工夫を施した。
コースは皇居、浅草、銀座など名所を巡る。国際陸連(現世界陸連)
会長のセバスチャン・コー(65)も満足していると耳にした。
「暑さは、コロナ禍以前は最大の課題だった。対策は十分とは思っ
ていなかったから、提案は頭では理解できた。でも国際陸連が賛成
しないだろうとも思った」。ところが難航するとの武藤の見通しは
外れた。15日午前、「コーが了解した。これで行く」とコーツか
ら断定的に知らされた。
そこで初めて東京都知事の小池百合子(69)にしらされたが、了
承しない。当然である。これまでの時間と労力。経費を無にしろと
言うのだから。
16日にコーツから情報が寄せられた。バッハが16日中にIOC
理事会を開き、札幌移転を決めると。「急すぎる。延ばして」と要
望したが、バッハは応じなかった。日本時間のこの日夜、IOCは
札幌移転予定と公表、翌日にバッハは「決めた」と言い放った。日
本の憂慮は置き去りだった。
(異例のトップダウン)
通常の決定プロセスは組織委など開催側の提案をIOCが審議して
決める。トップダウンは極めて異例。IOCが最終決定権を握って
いるため、それ以上あらがえなかった。国、都、組織委とIOCの
4者協議で小池は「合意なき決定」とのまざるをえなかった。
「民主的とは言えない」
武藤は「民主的とは言えない」と批判した。「五輪運動への影響を
と批判した、戻る2
懸念したとしても、冷静に相手(小池知事)と相談して納得した上
で進めるべきだった」。そうしなかったのは、ボートなどの会場見
直しで抵抗した小池に、IOCは不信感を抱いたからと読んだ。「日
本の事情に配慮したら物事は進まない」とIOCの見方を代弁した。
キーワードは「保身」だ。武藤は陸上関係者から聞いた話を明かし
た。ドーハの惨状が国際陸連内で大議論を呼び、コーと会長職を争
った実力者のセルゲイ・ブブカ(58)がコーを責めたという。こ
れを知ったバッハが、もし東京で二の舞いとなれば「誰の責任かと、
責められかねないと心配したのだろう」と強硬手段の背景を見立て
た。
小池も提案を蹴って、東京で惨状を呈したら責任を問われかねない。
絶対反対でなく、移転費用の負担拒否、との条件闘争となった背景
に、したたかさが透ける。
組織委会長の森は水面下で根回ししたようだ。小池に伝える前に一
部都議に漏らしたといわれる。「フライング」だが、コース設定に
は都議や区議が介在したというだけに、事前に知らせて反発を抑え
たのだろう。政府にも了解を得たはずだ。
「正式通告以前に」
正式通告以前にどんな予兆があったのか定かではない。森は通告を
どんな予兆が、戻る3
受ける前日の10日、五輪相の橋本聖子(57)と札幌市長と会っ
た。内容はつまびらかではない。コーツは16日に「先週には五輪
相が(移転に)前向きと知った」と語った。東京五輪あのとき何が、
マラソン札幌移転、背景に透けるバッハの保身。マラソン札幌移転
の話がIOCのバッハ会長から急に出てきた。彼はドーハで凄い暑さ
の中でマラソンの女子選手が出場選手の4割の28人が、棄権した
のを実際に知っていたからこのようになったのか。バッハ会長は半
強制的に決めてしまった。東京五輪でドーハの二の舞いだけはどう
しても避けたかったのだろう。真実はバッハ会長だけが知っている。
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